脳スキャンで治療効果、再発を予測

いつも読んでいる日経サイエンス2018 07月号の記事から。

うつ、依存症、社交不安障害
肥料効果を脳画像で予測

J.ガブリエル(マサチューセッツ工科大学)

社交不安障害の認知行動療法への反応が脳スキャンから予測できるという。事前の脳スキャンfMRI画像で怒った顔への反応が強かった患者では認知行動療法がより大きな改善に繋がる傾向が見られたという。また、拡散テンソル画像とMRIを使った、脳のネットワーク評価による診断基準で、どのうつ病患者に対する認知行動療法が有効化に関する予測精度は5倍向上したという。

また、覚醒剤アンフェタミン乱用の治療終了時の脳画像から、どの患者が12ヶ月間に再発されたかを予測できたという。

更に、肥満予防については、治療を受けたグループの、事前の高カロリー食品の写真を見た際のfMRI画像で脳の食物への注意と報酬領域の活性化を突き止め、この活性化が強い人は治療期間中減量にもっとも苦労したという。終了時のスキャンで注意と報酬領域が大きく活性化していた人は、9ヶ月後に食事療法から脱落していた例が多かったという。

記事は脳画像が治療効果や再発、学習などの予測に役立ちそうだ(課題もある)という内容だが、様はその人毎に違うと言うことが前提になる。

このブログではこのところACやBDPについて扱っているが、治療効果についてはその人によって違うということを言ってきた。同じBDPというカテゴリーに精神科医によって診断されていたとしても、そもそも診断基準自体が曖昧であるし、精神的なものは測定が難しく、精神科医の見方や経験によっても診断は違ってしまう。同じ人が精神科医によって異なる診断を受けることはよくあるらしい。誤診であったとされても、その新しい診断が正しいかどうかもあやしさが残る。そもそも精神医学領域の診断基準自体、常に批判がある。

精神医学領域はかなり自然科学から遊離していて、相当に想像の産物による。いまはこてこての精神分析による診断と治療はなくなっているものの、診断基準と薬による治療がこの領域では「科学的」とされているように思われるが実際に科学的な診断が出来る部分は少ない。たとえば、うつ病に関するセロトニン仮説はよく支持される程度にエビデンスはあるが、うつ症状そのものがもっと多様であることも分かっており、精神医学での薬物療法もどのタイプの薬が効くか効かないかという経験をもとに、このタイプの鬱は別のタイプの鬱とはしくみが異なるらしいとかと判断しているようだ。さまざまな精神疾患で鬱は登場するが、不明な部分が多すぎる。鬱一つでもこうなので、DSM等の診断名がつく分類では、経験と想像の賜物と言っていいぐらい、不明なものを相手にしているものがある。他科では当然とされる他覚的知見が得られがたい精神医学領域は、科学的に症状をとらえること自体が困難で、本人の弁や行動、観察によるところが極めて大きい(もっとも、医療の他覚的所見偏重の問題もある。他覚的所見が得られないがために詐病とされたり精神科送りされたりするが、のちに見逃されていた機序が明らかになることもある。むち打ち症状が典型的。だが、症状があっても医師の知識不足で見つけられないこともままありそうで、以前取り上げたものもそうだ)。

モノアミン仮説 脳科学辞典

 

 医学領域そのものが自然科学一般に比べて経験則的な側面が強い(現代の創薬は作用機序を元にデザインされることが多いが、経験が優先されて作用機序の不明な薬も使われてきた)が、精神医学領域はそれが際立っている印象がある。

BPDについてはBPDに特異的に使われるクスリはなく、抑鬱、不安に対してSSRI(セロトニン再取り込み阻害剤)を用いる程度が基本とされているらしい。

パーソナリティ障害の治療ガイドライン 牛島定信

 

また、DSS(ドパミンシステムスタビライザー:ドーパミン系安定剤)をあげている資料もある。

いずれにしろ根治を目指すものではなく、問題があるなら別の方法で表面上正常と似たような状態を作ればいいじゃない、というものであるから、副作用も起きるし症状がある限り薬も必要になるのだろう。多くの薬はガン細胞があるなら取り除けばいい、と言う発想とは大きく違う。

BPDに対する認知行動療法も、比較的効果はあっても万能である訳ではない。そもそもBPDが同じ原因を持つ一様な群とは考えられないので、人によって成績は異なるだろう。

結局のところ、詳細に医学的所見の得られる部分を解明、分類して、それぞれに適する治療薬、治療方法を明らかにするしかないが、いくらBPD患者が多いとは言え、それだけのデータを揃えることが困難だ。

取りあえず、脳スキャンで治療成績や再発の予測が出来る程度に知見が集まれば、最適な治療が現段階では困難にしても、効率化は出来るだろう。現存のやり方で効果があるとわかれば、積極的な治療を勧められる。

しかし、治療成績が悪い、再発可能性が高いということがわかった場合、それに対してどのような対策が取り得るのか。そのことで、本人や家族の徒労感が増し、自暴自棄的な行動を誘発する可能性もあり、難しい。

ただ、表面的に症状が緩解しているように見えても、脳スキャンを根拠に治療期間を延ばすなどの対応はBPDの場合効果はありそうだ。なにしろ高機能型BPDは医療者に症状をつかませないことに長けていて、それでも問題は確実に持ち続けているのだから。行動がおさえられて低機能型から高機能型に移行した場合、表面上寛解となって医療から離れてしまう。

そもそも高機能型BPDは社会適応出来ているために医療を受けることが少なく、医療側から捕捉されにくい。診察を受けても問題なしとされてしまうこともあるようだ。社会適応性や本人の生きづらさの度合いに治療の必要性を認める精神科の方針では治療対象になりがたい。パートナーや家族が連日暴力や暴言等に悩まされていたとしても。高機能型BPDが日本の医療者に問題として取り上げられづらい理由もここにありそうだ。ここに密室性の高い問題を起こしやすいBPDの闇があるように感じる。

精神科医が認めない限りカウンセリングは自由診療になる。この場合、保険が効かないので費用が莫大になる。アメリカでは心理士が判断でき保険が効く。おそらくアメリカで高機能型BPDが認識されているのはこうした事情が関係しているのではないかとも思われる。

近い精神疾患とされ、身近なものが大きな被害を受けやすく治療を受けることが少ない自己愛性パーソナリティ障害も同様だ。